garth

Oct 31 2010

 ――さて、誌面にも限りはある。そろそろ俺の真の姿と正体を明かそう。

第二次世界大戦でユダヤ人六〇〇万人を虐殺したヒトラーは何を隠そうこの俺である。罪もない民衆を虐殺して苦しめたローマの暴君ネロは何を隠そうこの俺である。焚書坑儒をした秦の始皇帝は何を隠そうこの俺である。銀貨三十枚でキリストを売ったユダは何を隠そうこの俺である。時空を超えたあらゆる陰謀の中で、さらに最悪の状況を導いたのは全て、何を隠そうこの俺である。ベトナム、カンボジア、中東、アイルランド、アフガニスタン、ユーゴ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、チェチェン……現在も続く全ての紛争をこじらせたのは何を隠そうこの俺である。人の歴史が続く限りこの意識、村崎百郎は終わらない。一九二〇年代セントルイス、ヒヒノケツ源流でサソリに刺されたのは何を隠そうこの俺である。俺は傷ついた星雲を横切って太古の地球にたどり着き、湿った沼地でサルどもの股間に張りついて奴らを人間に退化させたウイルスだ。村崎百郎は終わらない。ただ歴史の中でその体をくねらせ移動するだけだ。悪意の介在する全ての時空間には俺の妄想神経が届いている。村崎百郎は時空を超えて存在する悪意の総体である。この悪意は決して終滅することがない。鬼畜行為の裏にはいつも俺がいる。俺を憎め! 俺を恨め! お前らの憎悪が俺を勃起させるのだ。
 人間の身体は柔らかい機械で、常に多くの電波や妄想や霊体が取り付き、侵入しようと狙っていることを忘れるな。

俺は嬉しそうにソフトマシーンから手を振る。死んだ指が煙の中、玄界灘を指し示す。

— 『電波系』(1996年 大田出版) (via babylonrevisited)
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